高峰三枝子が学生に見えないで、職員か、または教員と思ってしまった。はじめの場面で佐分利信の教授がやってきて、おはようという相手の彼女を見て、まさか学生には見えなかった。戦後の混乱の中、大学生といっても歳食った人が相当いたようだから、これでもＯＫだったのだろう。それはさておき、この女子学生がたくましく生きていくのであるが、俳優としての彼女の出来が良くないのか、あるいはこの話の組立自体に欠陥があるのか、どうも生きていない。実際にいる人物にみえない。例えば、公金使い込みをしたサラリーマン（河津清三郎）はそれらしくみえないし、最後に彼女と無理心中を企てるまでいった重さも伝わってこない。似たような状況の「女」（木下恵介）と比べると分かりやすい。結局、この映画が失敗した作品だということなのだろう。
　みんな浮いているように見えたのは、その時代にばかり迎合した話だったからではないか。当時見ていた人はどう感じたのだろうか、興味ある。これだから、映画は恐い。最終的な出来不出来は年月が決めるものだ。
　ただ、こういう昔の映画の見るべきところは、昔の景色が見えることだ。特にこの映画は東京の四谷あたりの土手や銀座、神田、上野などが出てくるのが良かった。この時代に行ったら、どこを撮っても絵になる、と思った。ということは、今現在の東京も絵になっているのだろうか。時代色がつくのだろうか。といって、50年後まで生きられないし、もっと早く写真に気づくべきだった。　あゝ青春、あゝ。