頼りになるところ、心棒のようなものがなくなってしまったら、どうしよう。イタリア人にとって、それはイタリア共産党ではないか。イタリア人の議論好きはつとに有名だ。政治向きの話もどんどんするし、自分の支持政党もはっきり言うようだ。その辺が日本人とは違うところで、政治のことをおおっぴらに話さないし、特に支持政党は言わないのが普通で、特に差し支えがあるわけでもないにも関わらず、そうなのだから、それは日本人の悪しきところじゃないか。自分だけが突び出してしまうのを嫌がる傾向にある。回りが同じような人ばかりならば、安心していられるし、違うと居心地が悪い。だから、例えば共産党を支持していても、それをあからさまには言わないし、むしろそのことを隠すほどだ。

　「アトランティス」でも感じたことだけど、水の中にずっといる感覚って、どうも苦手だ。実際に泳いでもいないのに、水の抵抗までも感じるようで、疲れてしまいそう。しかも、イタリア語のせりふが、ほとんど途切れることなくまくしたててくるし、内容も内容で、拷問に近い感じさえした。

　彼はかつての栄光の夢を見ているのか。素晴らしく高揚した頃、今にも革命が成就しそうになった時、後から思えばあの時が山の頂にいたようだし、でもあの頃には戻れない。そんな思いが、切ないまでのいとおしさでせまってくる。ただ、その表現の仕方がイタリア式なので、馴染みにくいところがあるのだ。でも、かなり真面目に自己を見つめていて、好感が持てた。