IP5（IP5 L'lle aux pachydermes）1992

監督　ジャン・ジャック・ベネックス 出演　イヴ・モンタン、オリヴィエ・マルティネス、セクー・サル

　「父の恋人」では、子供が父を連れて、フランスを訪れる話だったが、これは自分自身の意志でかつての恋人に会いにゆく話だ。似た映画だが、大きく異なる点は戦争でヨーロッパに来させられて、戦争の終結が別れを強要したのが前者とすれば、この映画ははっきりしない理由で恋人のもとを離れていった過去の自分の罪滅ぼし、ないし悔恨の旅のようなもので、この老人に付き添って彼の気ままな旅を共にした若者は最後には拍子抜けしたのではないか。思わせぶりでいわくありげな森や沼での行動や姿から、過去をいっぱい抱えた老人が仙人のように若者から見えたとしても不思議ではない。しかし、この老人に魅力を持たせようとした監督とイヴ・モンタンの試みは残念ながら失敗したようだ。それより青年と少年が面白い。冒頭の壁にペイントする「芸術」はあんなのだったら、いくらあってもいいじゃない、と思わせるものだったし、彼にまとわりつく少年の辛い境遇にもかかわらず、けなげに生きる姿勢は変な老人なんかよりどんなにマシか、なによりこの映画で一番輝いている人物だ。壁画と少年で見せる映画だった。ジャン・ジャック・ベネックスは素敵な材料を混ぜれば素晴らしい映画がおのずから出来上がるとでも思っているのだろうか。ときたま、まぐれで良いのが出来ることもあるかもしれないが、それはごくまれなこと、少なくとも作者の意図がどのくらい映画になっているか、伝わってくるか、が重要だ。
　老人の何年にも及ぶ思いがくずれ去り、もはや彼の生きてゆく支えをなくした時、彼に死が訪れる。死ぬということはめでたいことではないが、彼のように思い残すことも、やり残したこともなければ幸せに死ねるのではないか。結末は思い通りにはならなかったが、それは自分の責任でもあるし、若気の至りのつけを後年払ったようなものだから、諦めるしかない。イヴ・モンタン自身の最後の言葉にも通じる終わり方から、これは彼の遺言のようだ。巧まずして出来た映画、として記憶されるだろう。