この映画を見て、「タクシーブルース」に似ているなと思った。それによると、ほとんど皆ながドラッグに漬かり、アルコールでらりっている、みたいな様子で、もうめちゃめちゃな状態のようだ。でも、片や、まじめに働いている庶民もいるのだろうに、そういう人のでる映画はソ連映画では特殊なものになっているようだ。このアメリカ産の映画はしっかりソ連映画の悪しき伝統を踏襲していて、ソ連という国はひどい国なのですよ、得意気に言っている。「ふたりの駅」とか、「モスクワは涙を信じない」のような映画を見たい。社会のどこに焦点を当てるかによって随分違ったものになるものだけれど、どうせ見るなら、人間の善意や、よいところを見たいものだ。
　アメリカののんきな青年が巻き込まれる事件というのが、例の、そうそうアメリカ的といえばいいかな、そんな事件。ソ連が解体しようが、資本主義になろうが構わないが、見本とするものの悪いところまでそっくり真似することもないだろうに、彼らはよほど窮乏生活を強いられていたんだろう。その反動で、こういう事態になってしまったわけだが、知らないというのは恐ろしいもので、まあ、一度体験してみて、その仕組みの脆弱さを知り、別の方法でやり直してみればいいだろう。でも、それはなかなか大変な道になるだろう。
　青年がホテルで別人と間違われて、というヒッチコック的な始まりで、頭で考えられた話ということがすぐわかる。それでいて、ヒッチコック的なユーモアのある展開になっていないので、おもしろくない。もっとも誰もヒッチコックを真似して成功した人はいないから、無理はないのだ。平凡な監督が凡庸なストーリーを上手に料理出来るわけがない。
　モスクワは道も広くて空気も澄んでいそうで、一度は行ってみたいところだ。