人が死を迎えるのは特別のことではないにもかかわらず、こうして映画の主要な題材になることが多いのは、やはり特別なことなのだろう。そして、それまでの長い年月を清算するための大切な時間を与えてるような作用をする。この映画がそうだ。旅に出ると人の本性が現れるというが、死ぬ前のつかの間にも本性が出てくる。
　死は必然であるが、まさか家族には来ないと思っている。あるいは、近い将来のこととは思っていない。まして、自分のこととして考えられるのは相当病状が進んでしまったと自覚した時になる。そんな時わがままを言えるのは家族だけだし、思いきりわがまましたい。だけど、元気な家族にはそれぞれの個人の事情がある。死んでいく人には気の毒だが、看病に全てをさくわけにはいなかい、というのが本音だ。いや、本当の本音を言えば、仕事も何もほっぽらかしにして、看病したいと思う。だけど、現実には仕事を止めるわけにもいかないし、そうそう休んでもいられない。
　この映画は看護の問題を直接えがいているわけではないが、裕福な家族でも簡単に問題は解決できないということは分かる。この程度のエゴがぶつかりあったくらいで済んで良かったくらいだ。それにしても、こういうことが次第に近づきつつあるなあ、としみじみと考えてしまう材料になった。