原題が「我的父親母親」という。私の父母についての映画だということが分かる。
　父親が亡くなったという知らせが届く。電話で話すことはあっても、長いあいだ帰ってなかった故郷への道はどこもかしこも凍っている冬だった。雪景色はモノクロームであらわせられるのか、と見ていたら、今は白黒だった。両親の過去は輝かしいカラーに染まっていた、とでも言うように綺麗な色が付いていた。思い出はモノクロームでもあり、鮮やかなカラーの場合もある。息子が両親の出会いをよく知っていたのは、きっと当人たちからか、あるいは祖母から聞いたからだろう。私はあのおしゃべり好きな祖母からだと思う。二人の出会いから結婚、子供が生まれ育て、という全てを「見た」のが祖母なのだ。
　結婚にはおおむね障害が付きものだ。特に映画となるとそれがないと物語にならない。では、この映画ではどうか、というと取り立てて障害となるものはなかった。若い女性が新任の教師に一目惚れしてしまい、その気持ちがそのまま行動に出てしまい、村の誰もが知ることになる。先生の方もまんざらではない様子。そうなると恋愛成就、結婚となる。しかもそれを止めるものはない。
　こんな何でもなさ過ぎるような話が映画になるなんて、目から鱗のような驚きだ。ちょっと形容の仕方が違うかもしれないが、平凡な話を一本の映画に仕上げた手腕はさすがだと思う。何の困難もなかった恋愛と結婚と、その後子供が生まれ、育ち、などは省略されていたが、村の人から尊敬されていたであろう一人の先生の数十年が直接描かれることなく、浮き出ている。これが映画というもののもつ力だ。映画の行間をしっかりと読むことが出来た。
　残念なことは母親だ。若い母親と老いた母親は同一人物のはずが、寄る年波か、まるで別人になっていたこと。