二十日鼠と人間（Of Mice and Men）1992

監督　ゲイリー・シニーズ　 出演　ジョン・マルコヴィッチ、ゲイリー・シニーズ、レイ・ウォルストン、シェリリン・フェン

　カリフォルニアの農場に働き口を見つけ、やってきた二人の男。一人はえらく背が高い。二人は仲の良いコンビのようだ。この農場では沢山の男を雇い入れ、畑作を大規模に行なっていて、今だったら機械でやるところを全て人の手を借りて、人海戦術でこなしている。働く様子はあまり詳しくは出てこなかったが、相当きつい仕事だと思う。このような雇われ仕事はきっと安定した職業ではなかったのではないか。安い賃金を我慢しつつ、ろくな仕事ではないが、かと言って他のを見つけるのも大変そうだ。そんな不況の時代のアメリカ。スタインベック原作なのに、妙に明るい雰囲気を持った映画になっている。内容は明るいものではないのだが、映像といい、働く人々の様子といい、暗さが見えない。原作に忠実に映画化されているのにもかかわらず、どうして明るくなってしまったのか。
　「時代」を映画に移し変えることの難しさをこの映画によって見ることが出来る。それは、いくら物語を映像に置き換えたとしても、それでそのままでは動く紙芝居に過ぎない。そこにうまく何かを填め込めたら、素晴らしい映画になるはずだ。その何かは、映画の行間にいくらでも入れることが出来るもので、ただし、下手な人にはやり方がわからない。この映画はその辺の処理が良いところまで行ってはいるのだが、かなり惜しい出来だ。きっと、時代を知らない人なのだろう。または、時代を読み切れないままで、映画にしてしまったようだ。
　まず始めに、ジョン・マルコヴィッチありき、という位彼なしには語れないかのような題材ではないか。それだけに、彼の演技は完璧に近く、満点だ。だからといって、映画自体も満点にはなっていない。これは残念ではあるが、仕方のないことかも知れない。まあこれだけ上手に作られた映画に文句を言うのも気の毒なことかもしれないし、悪い点はほとんどないのだから。
　この映画に暗さを与える方法が浮かんだ。モノクロで撮ればいいのだ。それでかなり印象が違って見え、本当に暗い雰囲気になると思う。そのくらいしかやりかたを知らないで、ああのこうのと文句を付けるのも変かも知れないが、カリフォルニアの青い空って感じでスタインベックを語るわけには行かない。
　何の因果か知らないが、少し頭の足りない男と一緒にいるために損な役目を背負わなくてはならない羽目になっている。そうとは知りつつ、でもなお離れられない、腐れ縁とでも言うのか、この男は俺がいるから一人前の仕事にもつけるし、一人じゃそうも行くまい、とでも思っているのだろう。そんな気の良い奴が、今度はやっと良い目を見られそうになる。農場の下働きをしているじいさんと協力してちっちゃな農場を買って、三人でやってゆこうという計画だ。じいさんのためこんだ金を大きな元手にしようというのだ。だが、フランケンシュタインが子供を優しく抱き上げたら力あまって殺してしまったように、農場の女房を殺してしまったのだ。それで万事窮す。良い夢を見ながら死ねるのは幸福なことなのだろう、きっと。