簡単な思いつきを映画にしている。それは女性の考えていことがそのまま聞こえてくるようになる、ということ。人は言葉で考えている、言葉が常に頭で働いている。言葉を介して思考している。実際に言葉として口から出るのは自分が口外してもオーケーをしたことだけだ。思っただけでは言葉にはならない。これは誰もがそうしている。もし、頭の中で考えたことが誰かに知られてしまうのだとしたら、変なことは考えられなくなってしまう。そういうことは口にする前に頭できちんと整理するから喧嘩にならずに済んでいる。例えば、あの人はカツラをかぶっているな、とか、あの女性はブスだ、とか、いろいろと勝手なことを考えているわけです。これはもしかして私だけのことかもしれないけど。とにかく他人の内部には入れないから、どういうことを考えているかは分からない。
　それがですよ、それがもし分かるようになったらどうなるか、というのがこの映画の内容。それも、一人の男性が女性の影の声が聞こえてくるようになってしまう、という。たまたま上司になったのが女性で、いわば彼女に自分の地位をうばわれた状態の時に、こういうことなってしまった。これを天の助けと喜ぶべきか、へんてこなことが起こったと嘆くか。当初、彼は何だか分からない状況に驚きかつ悲しんだ。近くにいる女性の内部の声が飛び込んでくるものだから、そのうるさいことといったらない。自分のことをどう思っているかを知るのはちょっと興味あることとはいえ、まるで関係ないことまでもが聞こえてくる。こうなると拷問に近い。この超能力をうまく使う方法を見つけるまではこの能力は要らない迷惑だった。
　だが、どういうわけか身に付いたこの能力をうまく使えないものか、と考えた。そしたら、ちょうど目の前にいる女性の上司の心の声が聞こえてきた。彼女の仕事上の思いつきをちょっと盗んでみたら、これが案外うまくいったことから、この能力のうまい使い方を見つけた。
　あとの話の流れに意外性がなく、平凡なものだった。あまりにも上手にやってしまったものだから、この上司はだめで、自分がその地位つまり元に戻ることになる。それで目的が達成されたではないか、と言えば、その時にはすでに彼女とは恋愛関係、というありきたりな流れになっている。
　ＳＦ的な面白さを追及するのであったら、話自体ももっと面白くなければつまらないし、ごく普通の終わり方でがっかり。