ヘンリー(Henry:Portrait of a Serial Killer)1986
監督 ジョン・マクノートン 
出演 マイケル・ルーカー、トム・トールズ

 350人も殺すのはそうとう大変な仕事だなと思った。だって普通、人を殺してもすぐにばれて警察に捕まってしまう。でも、そうはならないで、次々に殺していったなんて、手際がいいというか、運がいいというか、ほとんど考えられないことだ。いわば完全犯罪で、でもじっくりと相手を選ぶゆとりのないままに、殺していったに違いないわけだし、前を通りかかった人は被害者になると心得ていいのじゃないか。でもそんな心得はいやなこった、と言いたい。ヘンリーがなぜ殺人鬼になってしまったか、という動機がよく分からない、母親のおかげというのだろうか、大した親もいたものだ。この親にしてこの子あり、か。人を殺すことが平常心で出来るのは異常としか言いようがないが、だとすると、ヘンリーは無罪になってしまうのだろうか、日本では精神異常の人が殺人をしても無罪になることがあるから。
 ヘンリーをムッシュ・ベルドゥにもしないし、ヒトラーに例えもしない、というすごい神経の持ち主がいる、この映画を作った人物だ。ジョン・マクノートンか、アメリカでもオクラ入りしていたというのも、うなずけるものがある。異常なものをごく普通の日常の中に描き、そのままほっぽりだしたまま、こういう映画を作った人も又異常と呼ばずにはいられない。見た人は異常ではない、だってこれ程の映画だとは見る前には知ってはいないのだから。これを好きという人だいう人がいたら、お目にかかりたいものだ。

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