小津安二郎もどきの映画ということは知っていたが、見る機会のないままだったが、ようやく見ることが出来た。それも未見の「ファンシーダンス」と二本立て、見逃す手はない。この新人監督の初作品で、どのくらいの意気込みであったかは知らないが、予算にしても、ピンク映画であるという拘束にしても、到底小津を真似する体勢になってないわけで、かろうじて、セリフ回しがそうかな、と思わせるものがあるだけで、内容もその他もろもろ、似ているとは言いがたい。ただ、ピンク映画としては相当風変わりなこの映画を初めに見た人は驚いただろう。小津作品を知っている人なら、やってるな、と思うだろうが、知らない人だったら、「何だ、この映画は、テンポもないし、棒読みのセリフだし、肝心の場面も上品すぎるじゃないか」ときっと思っただろう。とはいえ、この手の映画だからこそ、こういう冒険が出来たのであって、今彼が小津を真似た作品を作ろうとしても、まず実現は無理だろうし、そんな無謀なことはするわけがない。ヒッチコックを真似ても、似て非なるものしか出来ないのと同じことが起こるに決まっているからだ。パロディーとしてならＯＫだろうが、本気では不可能だ。いい俳優がいないこともある。小津安二郎がいまいたとして、現存の俳優のいったい誰を使うだろう。それに、なにより今の世の中のせこせこした動きに小津の映画がついていけないだろう。なにしろ、30年前でさえ、古くさい、と言われたのだもの、今だったら正に骨董だね。
　条件の悪さを考慮に入れたとしても、どうせ作るのなら、もっと徹底すれば良かったのに、と思う。カメラにしても、セリフにしても、あの家にしても、小津の映画っぽくない。でもそれは無い物ねだりの無理難題だろう。精いっぱいやった、と評価しよう。