ギャング映画は画面も暗く、分かりにくいものと相場が決まっているんだけれど、この映画はとても分かりやすく、内容まで明るいもののように思えてしまうから不思議。それはつとにダスティン・ホフマンのせいだと思う。銃をばんばん撃っても、悪辣な人間には見えないんだ。それは彼が下手なのではなく、どうしても彼の人間性が出てしまうのだろう。そういえば、今まで、こういう役をやったことがなかった、だから、本当はこの役は合っていないといっていいくらいで、でもミスキャストというほどではない。
　もっとも、この映画の主人公はビリー・バスゲイトだから、ダスティン・ホフマンがあまりでしゃばるのも良くないし、脇にまわる分、おとなしい演技をしたのかな。というと、やっぱり彼は上手い、と言わざるを得まい。
　役といえば、ブルース・ウィリスは何といっても、「ブルームーン」が一番であるし、他の役はやらないほうがいいと思う。そういう人って多いと思う。俳優なんだから、いろいろな役柄に挑戦してみるのは当然かも知れないけれど、観客からすると、俳優がどうの、ということはほとんどないわけで、その役そのもの、演技さえよければ良くて、映画にのめり込めるか否かはそこにかかってくる。だから、本当は俳優は顔の知れない人の方がいいとも言える。だって、ダスティン・ホフマンしかり、「卒業」の彼は無名だった。あの役が顔の知れた人がやったとしたら、随分印象の違うものになっていただろう。二作目からはそういう有利な条件はなくなるわけだから、難しくなる。顔が知れたのだから、俳優自身にとっては不利とばかりは言えないわけだけど、とにかく、そこを埋めるのが俳優の腕なんだ。難しいところだね。華々しくデビューして、始めの内はちやほやされて、いく本か出たものの、その内消えてしまう例の多いこと、多いこと。そんな中で生き残るのはどんなにか大変なことだろう。詰まるところ、ダスティン・ホフマンのさりげないすごさに他の人がかすんでしまったようで、そう、「バクジー」のアネット・ベニングのようだね。