ボブ・ロバーツ（Bob Roberts）1992

監督　ティム・ロビンス 出演　ティム・ロビンス、ジャンカルロ・エスポジート、ゴア・ヴァイダル、レイ・ワイズ

　アメリカは政治に限らず、人々の考え方が一色のような印象を持ってしまい勝ちだが、実はそうではない。それは日本が戦後50年近く、保守政治が続いているからといって、日本人全部が保守的かというと、そうじゃないのと同じように、アメリカが世界をリードするのが当然という考え方に賛同する人ばかりではないことは決まり切ったことだ。だが、大勢はその方向にあることは否定できない。
　大統領選挙の候補者選びのニュースを見て、いつもあの騒ぎようは異常だな、と思っていたし、あれだけ騒いでキャンペーンを張らないと、選挙登録に足が向かないという体たらくなのかと思っていた。日本も投票率、50数パーセントじゃアメリカみたいにやった方が良いのかとも思ってしまうが。候補者の内容はともかく、人気比べの様相を呈しているのでは、まともな候補者の出る幕はない。
　ボブ・ロバーツが歌手としての人気をバックに上院議員選挙に立候補した。ボブ・ディラン風の歌を歌い、キャンピングカーでキャンペーンをして回る。その州のもう一人の候補者は前議員で、年配だ。かたや、若くて人気もの、何かもっと大きな選挙と似た様子ではないか。歌は歌わないが、サックスはプロ級の腕前、これを大いなる武器としたのはきっとこの映画を真似たのかな。映画で具体的に示されるこすいやり口までも真似したのなら、止めてもらいたいものだ。真似はしません、もっとひどい手を使いました、というかもしれない。当選するためにはどんなことでもするのが、彼らなのだから。ボブ・ロバーツが最後には狂言暗殺を企んでまでも議員になりたかったのには、何億もの金を積んでも医者にさせたい親のように、それになったあかつきの栄光の日々、金まみれの生活を夢見るからだろう。それは確実に実現される証書のように確かなものなのだ。政治がそういう悪い常識に染まっていることに、何もしないでそういうものなのさ、と諦めていて良いのだろうか。それこそ彼のように若い、しかし健全な政策の持ち主に選挙に打って出てもらい、そういう人を首尾良く当選させ、政治がきちんと機能するようにさせれば良いのだ。
　でも、実際は選挙には金がかかり、それを回収し、しかも個人的名声、そして多大な報酬を受けるべく活動するには、今の仕組みを変えない方が都合が良い。つまり何も変わるところのない政治家の誕生となるに過ぎない。残念ながらアメリカにはそういう政治体制を打破する有効な方法がないので、こういう政治家が多く出てしまうのは仕方のないことだ。良心的な個人や、草の根運動の中から良い芽の出る可能性を信じるしかない。
　アメリカ人は行動的だ。自己を主張する。慎み深く、遠慮なんかしていたら置いてかれてしまう。依然は実体の伴った自信に満ちあふれていたのに、今では裏づけのない自信を誇示している。個人的に知っているアメリカ人がいないので、大統領の大風呂敷に本当に同意しているのか聞いてみる術がない。世界のリーダーとして君臨するのがアメリカの使命であるかのようなことって、変だ。ねえ、そう思うでしょ。