原題はEXTREME MEASURES。この邦題は内容を曲解させてしまう恐れがあり、良くない。
　映画の題材としてあばく相手の一番手は警察、次にＦＢＩが来て、病院となる。どこにも不正があって、それをたまたま見つけた人間が大変困難な目に遭いながらも、解決していく、というのが常套。でも、これだけ突拍子もない話だと、にわかに信じがたいし、また実際のことではないだろう。ただし、今の状況からすると、あんがいあることかもしれない。なにしろ、アメリカはどんなことにも最先端を行っていて、特にこういった医学の分野では歯止めがまるでないかのようだ。だから、日本では禁止されている手術を受けるためにアメリカに行く人もいる。生死にかかわることで、アメリカまで行かなくてはならないのだったら、日本で出来るようになるのがいいのだが、その内容をみると、そう簡単に日本でも、とは言えない。例えば、脳死の問題だ。身体は脳からの指示がなければ動かないことになっている。ただ、心臓にしても、その他の部分でも、体外からの刺激ないし、電気的な助けで動かすことは可能だ。これを神をも恐れぬ行為の一つに数えることもないであろうが、人間は一つうまくいくと、次のステップを考えずにはいられない。最近の話題ではクローンだ。哺乳類の人間に近い種類まできた。研究者は明らかに人間で試したいに違いない。原爆を作ったのも冷静な科学者だったことを考えると、人類全体の安全とか利益は後回しになることは歴史の示しているところ。きっと、この映画じゃないが、誰かが隠れて知られるとまずい実験をしている、あるいはしようとしていると思う。
　こんな映画が出来るには、それなりの背景がある。輝かしい文明の発展はいいが、それが人間を幸せにしてくれる最上の方法か、と疑問を呈し始めている。映画は娯楽ではあるが、ときどきこうして意外な問題提起をしているのはとても良いことだ。映画としてみると、矛盾や作りものめいたつぎはぎのあるものでも、私は買う。端的に言えば、何か書くことの出来る材料を提供してくれるような映画、これが望むところだ。毎日の中で、現実をみつめると、怒り心頭に走るようなことばかり。逆に楽しみに見る映画は、ただ面白いだけでもかまわないのだが、プラス問題提起があると、こんなにうれしいことはない。そうでもしなければ、あらためて現実の中から問題を抽出して考えたりしないから、こういう刺激は大切にしたい。その点からも映画を見るのだ。
　そもそも、人間が医療というものを我が手にしてからたいして経っていない。厳密に言えば、病気を克服していないのだから、ぜんぜんだめだ、と決めつけてもいい。ＤＮＡが解明されると、ほとんどの病気の治療法が得られることだろう。クローンを大量に作って、ドナーに備えるだとか、将来は見えている。ただし、それは明るい側だけを見た時のこと。結果的に人間の為になるのだったら、過程はどうでもよいのか、それこそ神をも恐れぬ行為が横行してしまうだろう。現に、それに抵触したことがいくらでもあると思う。毎日のように流されるニュースで私たちの正常な（？）思考が麻痺してしまう危険がある。といって、今さらアーミッシュになろうとは思わないが、そういう私も今という時代から抜けられない。だからきっと一昔前の人から私たちを見たら相当毒されていることだろう。
　実験動物の苦しみを思いやる人間が同時に動物を食べなければ生きていけない。だが、これは矛盾ではない。無機物を食べ物にすることは出来ないのだから、どんなベジタリアンだって、植物という生物を食べている。植物がよくて、動物がだめだというのは変な考えだが、どこかで線を引きたいのだろう。生の魚を食べることが、あるいは生きたまま食べることが、それともどんな動物も食べることが良くないというのなら、そういう人は食べなければいい。ただし、それに大層な論理を付けないでほしい、また他人に強制しないでもらいたい。同じように医学のことも考えたい。人間だけが助かればいい、ということは人間にとっては重大事に違いないが、人間を最優先にするということは、下手をするとその人間の中にも差異を持ち込むことになりかねない。医学の発展には今までずいぶん犠牲者がいたことだろう。そうそう、731部隊があった。目的と結果が良ければ手段は問わないとうのが最もおちいりやすいところだ。それが特殊な教育を受けた者だけがそうなるのではない、という指摘は当たっているだろう。また、時代がそうさせるともよく言われるが、今がそうでないとは否定できないから恐い。いつでも、どこでも、誰にでも当てはまる事柄なのだ。だから、どんな形での指摘でも大事だ。
　博士はきっと良いことをしているという確信があっただろう。また、そうでなければ、あんなことをするわけがないし、出来ない。だが、それは悪魔の行為と化していた。初めの一歩は正しくても、次のステップを踏み外し、その次は更に方向が変わっている。そうなると、もう元に戻れなくなる。正しい指摘にも耳を貸さなくなる。アメリカ映画はほとんどが脳天気だが、教訓や警告は忘れていない。それで、この映画のようなのが出てくる。これで中身が良ければいいのだが。