これはハリー・パーマーの20年後だ。スパイの仕事から足を洗い、ハリーズなるジャズクラブのオーナーとして、好きなジャズを聞きながら、のんきな生活を送っている。神経を擦り減らすスパイから比べれば、どんなに優雅な毎日か。どんなに退屈な毎日か、とも言えるが…。アメリカ大使のアルバイト的悪事を暴くという仕事が久しぶりの事件となった。マイケル・ケインのスマートな切れる男の非情さ、イギリスの地味なスパイの第一人者が、年をとり太り、別人になってしまったのがさびしいことだ。だから、体を動かして犯人を追うのや、犯人に追われて、波止場を逃げ回るのは辛そうだ。
　この映画で最も印象に残るのは、高架線に沿うように建つホテルだ。犯人が立ち入ったホテルを見つけ、袋の鼠にしたと思いきや、一足先に張り込ませていた刑事は殺されてしまう。そのホテルのロケーションの見事なこと、映像として最高。きっとマイケル・ケインはほくそえんだに違いない。ぐずぐずと事件に巻き込まれてしまって、かっこよく決めるわけにも行かず、いわゆる決め手のない映画ではあったが、このホテルだけで、あとはいらないくらい。屋上の狭い空間でたたかうのもスリルがあって良いし、しかも屋上から線路に出られるようになっている、ここまで揃っている場所はそうそうないだろう。
　変人ショーン・ヤングがわりとまともな役をやっていて、謎の人物になりうるのにそうではなくて、この映画、随分いいとこ突いているのに、肩すかししてるなあ。残念。