映画はアイディア次第だ。いくら低予算でも、これだけのものが作れるのだもの。まあ、アイディアだけが良くても、どう映画にするかも重要だ。
　こういうＩＦ、の話は面白い。ＳＦは話が飛躍出来るからだ。ただ、めったやたら飛んでしまってもいけない。ＥＴものとしては抜群のアイディアだろう、なにしろ人間をそのまま出している。宇宙人なのだが、見かけが黒人なのだ。これは、すごいかも。相当深刻な内容になる可能性のある設定だ。だが、そんなことはしない。扱う題材はあくまでも真面目なのに、深刻ぶらないところがいい。
　この映画でもニューヨークに一人のイノセントな黒人が現れて、どうのこうの、ということにしているだけであって、それ以上の深刻さを避けている。ただ、監督本人出演になる、捜査官がひどく真面目に彼を捜しに来ている姿がおかしい。黒づくめの、いかにもそれらしい姿は、真昼の烏のように目立つ。考えてみれば、ニューヨークに黒人、という組み合わせはありふれていて、不思議なことはまったくない。ありきたりな状況をどう特殊化するか、これはかえって難しい。一見黒人がどうあがいても、ここではただの黒人にしか見られないのだから、それをどう打開するも何もない。ただ、彼を捜す怪しげな二人の方がよほど怪しい人物で、ということは「容疑者」の方が「捜査官」より不審な者ではないという証拠であろう。何しろ所は、ニューヨークなのだから。いろんな場所に彼を送り込むのも一考だね。