キューバの音楽がどういうのかは知らない。スペイン語圏だから例のいやらしく歌い上げる感じのだろう、くらいな認識しか持っていない。ところが、この映画をみてその認識が一変した。この映画の音楽をもってキューバの現代の音楽を代表しているとは思わないが、ある過去の時期にこのような音楽がかつてあった、ということだけは言える。それがたとえ忘れ去られようとしていた「骨董品」であったにせよ、甦ったことはすばらしいことだ。御当地であるキューバでさえそうだったのだから、こういう音楽がそのままなくなってしまっていたかもしれないことを考えると、ぞっとする。知らないということは、ある意味では幸せである。知らないままで過ぎてしまえば、それまでだからだ。だが、一度知ってしまった今、このままで通り過ぎるわけにはいかない。この映画に出てきた人たちはいってみれば、なつかしのメロディーの歌手たちである。だが、ただ昔なつかしの曲を聞かせてくれるだけなら、これだけ熱狂的に迎え入れられることもなかっただろう。では、なぜ昔の音楽が鮮やかに甦ったのか。それは彼らの音楽が昔も今もひかり輝いているからだ。古くさい歌、とみなされず、昔のだけど今でもはっきりと通用する音楽としての価値があるのだ。それは私のような完全な門外漢が聞いても素晴らしいと思える力強さがみなぎっている。それがたとえ古くさい音楽だとしても、いいものはいい。つまり私のような何も知らない人間を目覚めさせてくれて、ありがとう、ということ。