いつも奇妙な映画を見せてくれるコーエン兄弟が今回は、ちょっと違った切り口を見せている。まず始めに、この映画は事実であることが示される。「事実は小説より奇なり」というが、アメリカ、北ダコタの町ファーゴで実際おこった事件なのだ。思いがけないことが起きることはある。だが、この事件は小さな種がとてつもない怪物に化けたような勢いで広がり、かつ悲劇へと突き進んでいく。その小さな種を蒔いた本人の意志では、もはや止めることが出来なくなって、、、、。
　こういう映画を見ていると、変に作られた物語を使うより、新聞記事から探した方がいいのじゃないかと思えてくる。たとえば、ファーゴの事件が創作されたものだとしたら、とてもよく書かれた脚本だと思うだろう。話の流れが奇抜だけれど、自然でもあるし、と、とにかく感心するだろう。
　事件の種を植えた人間はいったいどういう気持ちで事を始めたのだろう。言ってみれば簡単な構造をしている。狂言誘拐だ。実際に誘拐事件を起こす人間の人選を誤ったということだ。まあ、誘拐をまともにしでかす人間もないものだが。小さな嘘が次第に大きな嘘になっていく過程がとてつもないものに、という形だ。「犯人」がまともな人物であればこんなことにはなっていなかったのに。だが、「犯人」は往々にしてこんな破壊的な人物でありがちだ。映画として、話の流れは読むことが出来るが、軌道はかなりはずれ勝ちになる。それも悪い方向へ方向へと。
　アメリカ北部の寒さは生半可なものではない。それを実際撮っているから、寒さに臨場感がある。まさに凍りつきそうな事件だ。事件の中途半端でない異常さと、日常性とが混在して白昼夢を見るかのような気分にさせてくれる。これが本当の夢であったらいいのに。