フライド・グリーン・トマト
（Fried Green Tomatoes）1991

監督　ジョン・アヴネット 出演　キャシー・ベイツ、メアリー・スチュアート・マスターソン、メアリー・ルイーズ・パーカー、ジェシカ・タンディ、シシリー・タイソン、クリス・オドネル

　　

　見知らぬ老女に話しかけられて、始めの内は少し迷惑そうな様子だったのに、ニニー（ジェシカ・タンディ）という女性の話す内容に次第にのめり込んでいく。その話というのが中年女性のエブリン（キャシー・ベイツ）ならずとも思わず聞き入ってしまうものなのだ。その昔話をメインに、現在の二人の女性をサブに話は進んでいく。ニニーの話すアラバマ州にあったホイッスル・ストップ・カフェにまつわる「物語」は起伏に富んでいて、面白く、まるで「映画」を見るようにエブリンには思えて来る。だから、ニニーの話を聞きたいが為に、叔母さんのお見舞いという元からの理由は次第に薄いものになっていく。この顔を見せない叔母さんにとってもそれは都合の良いことだった。それは直接はこの映画には関係ないことだけれど、叔母さんはぼけてしまって姪、ないし甥の顔が分からなくなってしまったものか、何か他の理由があって、二人を避けているのだ。

　イジー（メアリー・スチュアート・マスターソン）と兄のバディ、彼を好きなルース（メアリー・ルイーズ・パーカー）、この三人が大きな川の流れの中を横切ったり、深い緑の中ではしゃぎまわったりする幸福な時。それがあの忌まわしい事故で二人にとって大事なバディを失うことになるとは。身近な人を失ったことのない私としてはそういう時の気持ちは想像するしかないのだけれど、二人のその後の生き方をかなり変えてしまったところを見るとそれだけ大きな存在だったことがわかる。いい兄貴とやさしい人が突然いなくなってしまったのだから、当たり前のことだろう。特にイジーは他の家族ともなじめないまま、あっちへふらふら、こっちへふらふらするようになる。男まさりの自由奔放さはバディの分までも生きてやろうとでも思っていたのだろうか。
　アメリカの南部アラバマといえば、黒人たちにとって大人しく生きるしかなかった土地であったが、現在でも西部であのような事件が起こる国なのだから、まして公民権運動の起こる前のことだもの押して知るべしで、ちょっとでも黒人に優しくしたら村八分のようなことになってしまうし、この辺の様子は今までずいぶん映画で見てきたところだ。
　あのＫ･Ｋ･Ｋがここにも表われた。彼らは白人に違いないし、場所も田舎なのだから、警察にしても犯人の見当はすぐについて当然だったと思うのに、彼らを庇うのもまた白人の警官なのだ。だからといって、白人は皆なそういう人ばかりなのかといえば、そうではない。むしろそうではない人の方が多かったからこそ次第に改善されてきたのではないか。でもそれは長い長い道だった。そこに、それこそ「事件」が無数に起こったことだろう。この事件もそんな事件の一つだった。
　殺人事件と一口で言ってしまえば、そのこと自体はひどいことであるし、またあってはならないことである。でも、人を殺しても誰もが皆、死刑にはならないことをみても分かるようにそこには殺人に至った訳、理由があり、いわゆる情状酌量の余地があるわけだ。フランクが殺された理由は明らかに正当防衛であったし、殺された方が悪いのは明らかなことであったにもかかわらず、なぜ、殺人事件そのものを隠そうとしたかと言えば、フライパンで頭を叩いて死に至らしめた人が黒人だった、ということだ。黒人には正当防衛が成り立たない時代だったのだ。その後の種明かしというか、真相はとてもユニークでブラックユーモアに近い、胸のすくものであったのだが、このことだけはもしかしたら、作り話かもしれない。ニニー（イジー）ならこのくらいのことは言いかねないし、またそれが真実であっても少しも構わないと思う。
　エブリンがデブで、容姿にコンプレックスを持っていて、自分の生活をどうにかしたいと思っていることは特別なことではない。だからこそ、カルチャースクールのようなものがあんなに盛んなのであろうし、でもほとんどの場合一時のひまつぶしでしかないのも事実であろう。波風の立たない湖の表面のような生活に飽き足りない思いを抱いている人を責めるわけにはいかない。イジーやルースのような人生は話で聞く限りは面白いものであるけれど、またエブリンののめり込んだ訳もその面白さにあったわけで、それは責めはしないけれど、彼女を代表とする今の人の微温湯に浸った生活がある。だが、誰も「時代」という枠からは抜け出すことは出来ないだろう。イジーが殺人事件に関わりをもった時代は、イジーたちの努力で克服されたのだから。だが、それは完全ではないだろう。でも、彼らの懸命な生き方が何かを少しずつではあっても動かしていること、これは今の人間だってそうしているはずなんだ。そうであってほしいね。
　フライド・グリーン・トマトって味はどうなのかな。食べてみたい気もするし、いかにもまずそうな感じもするし。
　現代の二人がうまいのはもとより、昔のイジー役のメアリー・スチュアート・マスターソンがとってもいい。