大きな水槽の中を人魚の格好をした女性メイメイが泳ぐ、泳ぐというよりむしろ動いている、と言った方が正解だと思う。というのは水槽が室内にあって十分な大きさがないからだ。いっけん幻想的に思えるこのアトラクションも実際に見ると興味半減してしまうのではないか。だって、人魚っぽい水着をつけて人間が水槽の中をぐるぐるとまわっているだけなのを見て、どう感じればいい。わあっ、すごい本物みたい、あるいは、美しい幻想のようだ、とでも言えばいいのか。安手の見せ物小屋かなんかとしか思えない。
　所は上海、蘇州河が流れている。昔の隅田川のように汚れている。船の上から見える景色もなんだか薄汚れている。これが上海か、こんなにきたないのか、がっかり。この映画はそういう場所ばかりをねらって撮っているように思える。大都会の裏通りにはこんな空き地があって、得体の知れない人間が住んでいる。そうだな、中国でいえば香港の裏町のような雰囲気がここにもあった。きっとどんな都市にもあるような場所なんだろう。そんな所にある店の見せ物になっているメイメイは美しいからオーケーという感じだ。こんなところにこんなきれいな娘がこんなことをしている、というイメージは幻想的というより、現実的な美だ。映画的な美しさとも言える。映画だから、と言ってしまえば身も蓋もないが、ありそうな現実感がある。香港にはない、台湾にもない、まして日本には絶対にないもの、それがあった。中国本土には本物がある。映画だから嘘ものなんだけど、うその本当がある。