ダニー・ボイルがアメリカで作った新作。イギリス人に限らず、外国人がアメリカに呼ばれて、アメリカ映画を作るが、どんな映画を作ってきたか、を考えると、おのずとこの映画の出来も想像できる。だが、非英語圏の監督ならともかく、同じ英語を使っていて、同じ文化圏と言っても差し支えないイギリス人だから、その差異は少ない。もっとも、彼のように思いきりイギリスっぽい映画を作ってきた人間にとっての、アメリカ映画はやはり違うものなのだろう。これがアラン・パーカーのように器用な人なら、イギリスでもアメリカでも見事な映画を作ってしまうのだが。その点、この人は、そうね、この一本だけでは判断できないが、半分成功って感じかな。ということは半分失敗ってことでもあるわけだ。似ているのは言葉だけで、やはりイギリスとアメリカは違う国だ。
　失職させられた腹いせに社長の娘を誘拐する。だが、どうやって身代金をしとめたものか、計画性がまったくないものだから、とまどってしまう。十分に計画してもうまくいかないのに、無計画が成功するわけがない。ダニー・ボイルが「熱帯魚」を見ているかどうか知らないが、誘拐するのも誘拐されるのも人間だ。何日も一緒にいれば、気持ちも通じてくるだろう。何が普通で何が普通じゃないのか分からないが、誘拐に至る気持ちにも、誘拐した相手に気持ちが移ってしまうのも普通な成りゆきだ。だから、いったい何が普通じゃないの、と思う。アメリカ映画のダニー・ボイルはむしろ普通だった。