現実と幻想の狭間にフィオナは入り込んでしまう。始めは祖父から聞いた話、ローン・イニッシュという島で起こった出来事の話だ。この島ではずいぶんいろいろな不思議なことが起きた。それが神話とか、言い伝えという遠いものではなく、現在いる人の証言が得られるくらい最近のことなのだから、驚きである。アイルランドの、それも小さな島の「神隠し」のような出来事が、つい最近に起こったというのだ。祖父の口振りは、幾分よた話に近い印象を受けるものだったが、聞いた少女フィオナは、話の内容を確かめるべく島に渡る。一人では心細いので、親戚のお兄さんと一緒だ。荒れ果てた廃屋を屋根を葺き替えるところから始め、二人できれいにしてしまう。そこに、祖父の話に出てくる子供を迎えようと言うのだ。
　ジョン・セイルズがアイルランドの映画を撮る、と聞いて、どんなのが出来るか楽しみだった。見た印象は、はっきり言って、彼のものではない話だな、と思った。向き不向きの問題ではなく、彼ほどの力のある人がとるのだから、映画の形を成さない、というような失敗作になっているわけではない。むしろ、フィオナのかわいらしさ、懸命さが良い結果を導き出した、不思議だけど、良い話になっている。内容の今伝説のような色合いと、映画自体の明るさと、アイルランドの風土が一致していないズレがある。それは、監督の体質がこの話をとてつもなく明るい景色にしてしまっていることに、奇妙な印象の正体がある。
　でも、こんな出来も愛嬌だ。あまり器用な監督でないことが知れたのもかえってうれしい。うれしい異色作だ。
　あざらしの類が人間と見間違われるのは、彼らが哺乳類だからだけではない。確か、人魚もジュゴンだから、同じ仲間。海に住むが、陸でも生きられる。人間との接点があるから、こういう話が作られるのだ。ゴム状の上着を脱ぐと、中から人間の姿をした女性があらわれて、人間の男につかまえられて、結婚し、子供を生む。人間として暮らしていながら、いつか海に帰ろうとしている。こういう形の話は世界各地にありそうだ。動物と人間の交流が今よりずっと多かった頃に生まれた話だ。
　アメリカにこんな話が伝えられているはずはないから、映画にもないだろう。案外監督が考えているほど、今甦らせなければならなかった話でもなかったように思う。ただし、アメリカでは有効な映画だ。だって、ないものだから。