アメリカ人はヒーローを常に追い求めている。あの湾岸戦争にもヒーローを見出し、泥沼のベトナム戦争にだって、英雄は存在した。アメリカが抱えるさまざまな困難を一人のヒーローの出現によって、一時でも忘れることが出来るのなら、それで良いじゃないか、とでも思っているのか。混乱の極みからヒーローが救い出してくれる、そんないい夢を見ていたい。そんな夢を与えたい、というより、ヒーローを作ることが、視聴率のアップにつながるのだったら、何でもしてしまうテレビ局。彼らがそんなヒーローの出現に一役も二役も買って出た。
　さえないけちな泥棒がひょんなことから、飛行機事故の現場に遭遇し、はずみで乗客を助けてしまう。そのこと自体は命がけの英雄的行為であり、充分に報いられる類いのものである。それが素直に彼へ報奨金とか、名誉とかの形をとって、かえっていたら、こんなことにはならなかった。人生に起こるさまざまな出来事は思い通りには行かないことばかり。バーニーが人助けをしたのも、自分の子供との思い入れが頭をかすめたからだし、それがなければ、あの大きな事故も彼の目には見えても、命を賭してまでの行為をするまでにはならなかったはず。
　バーニーがめんどうくさがってなかなか申し出ることをしなかったら、別な人物が名乗り出た。そいつはあの事件の帰りに乗り合わせた男で、空缶を回収して金にしている奴だ。あんな男に大枚１００万ドルも持って行かれて、黙っていられない。あいつはにせものなんだ、俺が本当のヒーローなんだ。１００万ドルは俺のもの。この声がすぐに取り上げられたら、こんな大騒ぎになる前に事件は違う方向に進んでいただろうに。
　ヒーローを潜在的に求めているアメリカ人、テレビ局としては大々的に取り上げれば、取り上げるほど、見てくれると思うからこそ、１００万ドルもの大金を懸賞金として申し出たのだし、それに釣られて出てきた男が放送局の想像した以上のことをやってくれる人物であったことに狂喜し、より高く祭り上げることに躊躇することはなかった。
　それを見た人命救助の当の本人バーニーが黙って指をくわえて見過ごしているわけではなかった。刑務所では嘘つきとさんざんからかわれ、お前があんな英雄なはずがない、とまで言われ、だけどあれは本当に俺のやったことなのだから、誰がなんと言おうと、名乗りでて、金をつかまなきゃ気がすまない。これはごく当然の要求で、間違いは正さなければならない。そしてテレビ局によって持ち上げられるだけ持ち上げられてしまったジョン・バーバーがその居心地の悪さから逃げ出そうとする。
　人間は誰でも完全にニュートラルな立場にいる人はいない。家族がいれば養わなくてはならないし、親の面倒をみることも必要だ。天涯孤独でも、誰の助けもいらないわけには行かない。他人に面倒をかけて、助け合うことに生きることの意義があるといってもよい。事英雄的な行為となると、天の高みまで誉めちぎらないといられないのが特にマスコミにある傾向のようだが、それはある意味では危険で安易な考え方かもしれない。いわゆるボランティア的な行動は利益を与えられる人にだけ分かっていればすむものであり、それ以上でもそれ以下でもない。だって、無私の行動が表だってしまったら恥ずかしいと思うのが普通だ。逆に名前を売るためにそういうことをする人もいないではないが。
　この映画が何を言いたかったのか、映画自体の面白さが勝ってしまっていて、はっきりと見えてこない感じがする。個々の人物の性格づけの面白さが演じる俳優の巧みさに裏打ちされて際立っているのを楽しめば良い。いわく、バーニー・ラプラント（ダスティン・ホフマン）の「真夜中のカーボーイ」以来の情けない人物の見事なはまり込みは彼ほどの人なら当然期待通りのものだろうが、良かった。ゲイル・ゲイリー（ジーナ・デイヴィス）の勝気さと、リポーターとして局の中で第一線で活躍しているという自負、すごい宝を発見して喜んでいる興奮、女として優しくなれる時の美しさ、彼女は彼女自身のキャラクターそのままを演じるタイプの人だから、これは本人に近い役だと思う。ジョン・バーバー（アンディ・ガルシア）がこの中では一番むずかしい役だ。金めあての男が大騒ぎされ、思わぬ方向を向けさせられる。世間の影に生きてきた男が最前線に立たされてしまう。しかもその新たに与えられた役をずっと演じ続けなければならなくなるなんて。
　いつか真実を告白しよう、と思いつつ、その機会を逃してしまう。だから、それはとんでもない突飛な形の行動となって現われる。命を賭けて、つまり命を引き換えにすみませんでした、と謝ろうというのだ。この時点まで行ってしまえばこうするしかないだろう。この人騒がせな事件の結末はアメリカ映画らしい大団円となる。めでたしめでたし。