評判の映画で、混んでいるらしい、ということなので今まで見るのをのばしてきた。たまたま他に見るのがなかったので、見ることにした。映画って、始まってすぐいかないと、自分の中の見たい気持ちが薄れてきて、結局見ずじまいになることがある。この映画は鑑賞券を買ってあったし、見たいとは思っていた。原作は読んでいたので内容はわかっていたから、あとはこの超有名な、取り立てて事件のない話をどう映像化するか、に期待はかかる。まあ、監督が監督だから失敗はしないだろう。しかもイーストウッド自身がキンケイドになってしまうのだから、文句のつけようがない。ただ、気がかりはフランチェスカ役のメリル・ストリープだ。初めてこの配役を聞いた時、ミスキャストだと思った。金髪の北欧系っぽい彼女がイタリア女？　いくら達者な彼女でも無理だろう、と思っていた。そしたら、それは杞憂であったことが彼女の出てきたはじめのシーンで分かった。一目でイタリア出身の中年の疲れた女を、身体から、顔から、雰囲気から、その全てから発散させていた。これは、その存在だけで、この映画の出来が想像できた。
　全体的な感想をいえば、原作を読んだ時の印象とほとんで変わるところはないように思えた。本から想像される小さな世界をきちんと、おおげさでなく映画化されているからだ。むしろ、原作のある映画としては、心の中を言葉で言い表せられないにもかかわらず、十分仕草や表情で語らせている。これは生半可な監督や俳優には出来ないことだ。
　それでもなお、100人が100人とも納得させられないのは、映画の責任ではなく、内容のせいだ。普通は胸の内にしまったまま、死んでゆくものを、子供たちに残したところが、意見の別れるところだろう。他人に是非とも、と勧めることでもないし、こういう状況になったからといって、いい思い出になるとは限らないし、たまたま彼女にとっては素晴らしい経験だった、というに過ぎない。