二人の関係が実際、どういうものだったかは知らない。とにかく、ここ何年かは疎遠だったことはたしかだ。というのはミア・ファローでこのところ何本か映画をとっていたからだ。それが「夫たち、妻たち」を最後に、二人の関係は破局を迎え、あまつさえ養子をめぐる裁判沙汰にまでなってしまった。でもそれも有名人たる二人のスキャンダラスな報道が大げさに伝えたことのように思われないこともない。ウディ・アレンなる人物がどういう人かは、映画に出てくる人物そのものと思うしか他に方法がないからだ。たしかに、作られた人物が本人のわけはないし、作者自身が自分をおとしめて描くことはないことから考えると、映画での彼は、彼自身の理想、もしくはカリカチュアだろう。
　さて、この映画でも、当初ミア・ファローを使うつもりで予定されていたらしい。それが、急遽変えざるを得なくなり、誰を用意したか。答えは、この映画の通り、ダイアン・キートン。彼女は例えば、「アニー・ホール」などで、盛んに彼の映画に出ていたのは、もう10年以上前になる。だが、まったく彼とは没交渉だったのか、というとそうではなく、新たな女が出来たから、彼女は遠慮していたのだろう。でも、それは実に男の身勝手だ。しかも自分の仕事に好都合に使っておいて……。それもこれも、本当は彼自身の手で事の顛末を映画化してみたら、これまで以上のすごいのが出来上がりそうだ。でも、まあ作られることはないだろうが。ただ自伝的要素の濃い彼の映画のことだから、少しずつ作品の中にあらわれることはあるだろう。それが楽しみ。みずからのみっともなさも、武器にしてしまう強さがあると思うからだ。それは何も映画監督だけに限らない特質だと思う。全ての芸術家たる者の持つ悲しき性質だ。自分の中にあるものを表現することは、すなわち自分が表に出ることだからだ。他の誰かの気持ちを表現することなんか出来ないし、それは芸術とは言えないからだ。ただの作文というか、一つ次元の低い表現方法であろう。また、あえて言えば、子供の作文でさえ、すごい芸術的な読み物とは言えないまでも、芸術としての資格は立派にある。