この映画は見たかった。テレビの「スパイ大作戦」の映画化なのだから。プロの手による周到な準備と見事な変装、それでも毎回あやうい場面が設定されていて飽きさせない。一時間番組で、なにか他のを見ていて、後半だけ見ることが多かったのにも関わらず、それでも話は通じた。これは「刑事コロンボ」にも言えることで、しっかりしたシナリオの力だろう。で、今回の映画だが、時代はあれから30年近く経ち、いわゆる冷戦もなくなり、スパイの活躍する場も少なくなっている。スパイ小説家は題材に困っていることだろう。
　はっきり言って、この映画は物足りない。もっと面白く出来るはずだ。ストーリーがないのなら、テレビシリーズのいいところを頂いてしまえばいいのだ。だが、そうはしないで、新たな話にしている。これが成功かどうかは、以前を知る人かどうかによって違ってくるように思う。あの面白さ、爽快さを思い出すと、どうしてもこの映画の中途半端さが目立ってくる。私は、ＴＧＶとヘリコプターの後にもう一波乱あると思ったくらいだ。えっ、これで終わりなの、って感じ。でも、それだけあっけなく感じたくらいだから、面白く出来ていたのだろう。物足りなくて、それでいて楽しめて、でもまだまだ不満がある、という欲張りな気分にさせられた。
　こうしたらどうだろう。時代をさかのぼって、20年位前の設定にして、東西のスパイ合戦をじゃんじゃんやらせる。そんな中では彼らは生き生きと活躍出来るじゃないか。現代ではそうもいかないのを、むりやり作った感が否めない。
　電車のトンネルにヘリコプターが入れるものだろうか、大きさもあるし、第一中で渦巻く空気の流れで、まともに浮かんでられないと思うのだが。すぐ前にはＴＧＶが高速で走ってさえいるのだ。映画的には面白い絵が見られたが、いかにも作りものの場面だった。クライマックスがそんなだから、映画全体の力も弱まってしまったように思える。