1973年に作られた作品。登場人物から時代は感じるものの、作品の中身自体からは古くささはまったく感じられない。むしろ、エバーグリーンのみずみずしさがある。全作品を見直してみたい。機会がある都度見るようにしよう。フィルムセンターで見るのがいい。最高の状態で見られるから。ただ、観客が少なかったことが残念。別な場所で見ることが出来るからだろうが、何度見てもいい。
　リーリーの初登場。歌手の多くがこんな生活をしていて、ここからなんとかして這いあがろうとしている。が、きっとほとんどが無駄な努力だろう。華やかに見える反面、嫌なこと、つらいことは多い。それは、寅次郎のような生活と一脈通じるものがある。やくざな稼業と心得ている。何もかも分かっているような顔をし、口を利き、そのくせ、うまく世間を渡っていけない。まともな生活がおくれないから、裏街道を歩いているという自覚がある。それがある種の絆として、二人を結びつけている。
　わすれな草が紫の可憐な花だとは知らなかった。植物の名前をほとんど知らない。花に対して盲な私です。いくら美しい花が咲いていても、それを楽しむ目がなければ、ないも同然。
　二人の話を作っていくにつけ、どうあがいても二人は結びつくしかなくなる。今までは、寅が高嶺の花を摘もうとしていたのだが、今回はそうじゃない。一番気の合う仲間のような女性だ。あまりにも分かり過ぎちゃって、仲の良い兄妹のようだ。もしくは、長屋に住んでいる仲はいいのだけれど、喧嘩ばかりしている夫婦者というかんじ。そんなわけで、映画としては意外な結末を付けている。20何年前に見た時もそう思った。リリーが落ちついた生活が出来るだろうか、と。根無し草にとっては、地に足のついた生活は理想だろうが、それが出来ないからふらふらしているのだ。出来ないことを夢見るのはいいけれど。それでリリーに一度くらいは夢を見させてあげたのだろう。