ランブリング・ローズ(Rambling Rose)1991
監督 マーサ・クーリッジ 
出演 ローラ・ダーン、ロバート・デュヴァル、ダイアン・ラッド、ルーカス・ハース

 ローズ、あなたはどういう人なの? 医者の言うことはどうも信用出来ない。彼女が色情狂だみたいなことをいうけど、そういう病気ではないと思う。彼女の生まれや、育ち方、環境、それらの全てが混沌として彼女を形作っているのだから、それを病気でくくることは見当違いをしているように思う。自分を押えることが出来ないとか、表面上ははすっぱな女に見える。でも、それが信条だとも言えるし、そのどこが悪いの、と開き直りも出来る。ただ、彼女が近くにいると回りの人は穏やかではいられない、普通にしていられない。幸いなことに、彼女が住み込んだ家は、そういう彼女をも包容出来る大きな器であったことだ。大きな波は立ちはしたが、その余波で家族がちりぢりになることはなかった。それはもともとこの家族がしっかりとした基盤の上に立っていたからであった。妻と夫が互いに人格を尊重しあい、理解しあっていた。それはアメリカ南部の良き伝統であろう。南部と言うとどうしても悪い印象があって、あまり行きたい場所ではないが、反面、おおらかなデモクラシーの育っている地域でもあると聞いている。
 そんな南部の、それも彼女にとって理想的な環境の家庭に住み込み、早くもここの主人に恋してしまったローズのとった行動は直接的で、過激なものだった。なにが彼女をそうさせたのか、という詮索はさておいて、彼女がこんなにも心休まる居心地の良い場所を見出せたのは初めてだったのではないか。自分が思い通りに行動しても文句も言われることのない、そんな気ままなことが出来る、だから安心してしまったのだろう。彼女の自信なげな様子、何かにおびえているようなようなそぶりから、彼女の過去が見えてくる。不安定から安定へ、そんな軌跡が彼女をして一見奇妙な行動を取らせたのだろう。誰もが持っている幸福の追求は平等なもののはずなのに、そうはなっていないことに、彼女の性急な行動の原因がある。体の中から突き上げる衝動、それが行動になって現われるものだから、ついにはこの家族からも見放されてしまいそうになる。ここで辞めさせられていたら、どうなっていただろう。安定を求めて、それが得られないまま、不安定の領域に落ち込んでしまって、そこから這い上がることも、起き上がることも出来なくなってしまっただろう。この後のことは省略されているので、詳しくは分からないが、幸せな結婚をして、失敗して、又結婚して、それから35年たって、彼女が死んだという知らせが届く。ローズの人生は幸福だったのか。彼女の病気は治ったのか。かぐわしいピンクの薔薇の花のようにローズは咲き、そしてしおれ、枯れていった。一人の女性の人生をあくまでも外側から見て、こうでした、と語った話で、彼女が初恋の人とあがめる少年にとって、いびつではあったかも知れないが、まさに美しい花であったローズ、忘れられない思いでであった。

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