彼が本人であったのかどうかは、この際、重要ではない。どちらの場合も、彼の行動にはちゃんとした理屈が付けられるからだ。本人であった場合、彼が南北戦争で南部の兵士として戦い、戦争というものを経験し、人格が変わってしまった。以前の荒くれものが清められて、やさしくなった、と考えられる。又、本人ではない場合、彼に成り代わって、善行を施そうとした。ただ、本人の犯した殺人の罪をも負わなければならなくなったことが計画にはなかったこと。だが、命と引き替えに本人として絞首台に上がるまでになった気持ちが分からない。映画を見ている時には、流れでそういうのってありそうだ、と思えたものが、後からようく考えてみると、そこまで偽物が本物に付き合う義理はないように思うのだが。
　アメリカ南部って実際に行ったり、住んだりしようとは思わないが、なかなか魅力的な所のような感じもする。ただ、人種差別の温床であり続けている土地柄に危険性を感じはするが。それは、弁護するわけではないが、田舎の保守的な土壌がそうさせているのであって、住民は素朴な人たちなのではないか。少なくとも、ニューヨークのスノッブたちとは一線を画するもの大で、付き合ってみれば、良い人ばかりのように思う。日本だって田舎の人は保守的で他者を受け入れず、かたくなな印象があるではないか。でも、個人個人は悪い人なんかではない。
　この映画、フランス映画か何かのリメイクのようで、きっと前作は彼の行動も納得させられるように描かれていたのではないか。それがアメリカ映画に変身する際、分かり易くしようと無理するから、こういう理解できるが、納得するまでには至らないようになってしまったと思う。ヨーロッパの映画をアメリカ映画にする場合、そのほとんどが良くなくなるのにはそれなりの理由がある。アメリカ映画がアメリカ映画たる所以はずばりアメリカを描くからこそであって、物語の面白さがあるからと言って、場面をアメリカにするだけの安易さは慎むべきだ。
　ともかく、彼を絞首台に上げてしまったのは間違いだ。それは彼が望んだとしても、そうさせるべきではなかった。