女優に限らず、俳優というものの発祥は歴史をかなりさかのぼれるらしい。この辺のことは詳しくないが、日本でも歌舞伎にしても猿楽なるものからのものであるし、相当昔から演ずることはあった。この映画は17世紀のことというから、イギリスではシェークスピアが活躍していた頃だ。ちゃんとした舞台もあり、専門の俳優もすでにいた。イギリスの隣国であるフランスだから、似たような状況だったと推察するが、ずいぶん猥雑なものもあったと思われる。なにしろ、芸術というより、見せ物の要素100パーセントだから、楽しませることにかけては今以上だっただろう。まして女性が見せ物の一人になるのだ。マルキーズが舞台で媚びを売って、舞台の裏で身体を売っていたことも特別おかしなことではなかったようだ。彼女が女優として華々しく売り出すことが出来たのも、モリエールやラシーヌの力を借りること大だった。映画というものも舞台での芝居の延長のようなものだから、彼女は映画俳優の大先輩にあたるわけで、そういう意味では、観客が神様のようであることは今も昔も変わっていないということか。でも、今の俳優は観客を神と思っているかどうかは疑わしい。あれだけの金を得てしまうと考え方が変わってしまうか、あるいは逆により一層大事に思うかだろう。だれがそう考え、だれがそう思わないか、興味深い問題だ。単純に、自家用機を持っている人はそうじゃないとは言えない。というのは、あれはきっと税金対策だと思うからだ。なんて、いったい私は誰を擁護しているのか。
　マルキーズが舞台で成功したからといって、それが永遠の成功ではないことは自分にも分かっていた。自分についていた女の子が彼女の代役になった。代役から、のし上がる例は多いのではないか。誰でも機会さえ与えられれば、成功する機会もある。普通はその機会さえないのだから。だが、それでマルキーズの価値は下がりはしない。