見た見た、ジュラシック・パーク。マイケル・クライトンの原作はすでに読んでいたので、内容は知っていた。だから、あの内容をどのように映像化するかが問題だった。かなりなことをやってくれるだろうとの予測はあったが、想像以上でもあり、そうでもないかなという思いもあった。というのは、コンピューター・グラフィックスの技術はすごくて金をかければかけるほど、その威力を発揮するものと思っていたからだ。そして、スピルバーグが思いっきり技術と金を投入するに決まっているから、結果は見えていた。だから、思った通りであったわけだ。こういう先端技術を今の時点で判断するのは正しい見方ではない。稚拙ではない映像が後何年かしたら、幼稚なものに見えてしまうかも知れない。今現在の時点で判断して、素晴らしいと思っても、技術革新はすさまじいから、この映画が大したものではなくなる日もそう遠いことではないかも知れない。
　とにかくほとんど映像の力だけで押してくる映画だから、その魅力が薄れたら見るべきものがなくなってしまうに違いない。そういう不安がある。「キングコング」のように手間ひまかけた映像なら、又同じことをしようとしても、しんどく感じるかもしれないが、この程度のものだったら近い将来、家庭のコンピューターで簡単に出来てしまうかも知れないのだ。そうなったら、砂上の楼閣と化してしまうではないか。これはむしろ小説の方を読んで、いくらかの文明批判と受け止めればいいのではないか。非難されるような人物が皆無なんだもの、リチャード・アッテンボローも悪い人には見えないものね。
　本で読みながら頭で想像した絵がそっくりそのまま映像化しているのには少し驚いた。本当は私の貧しい想像力をはるかに超えて欲しかったから、意外性がなかったという不満でもあるのだ。恐竜の出し方は例によってうまい。出たらすさまじい勢いがついて、観客にまで飛び掛かってきそうな迫力だった。
　これは実現可能な技術なのか。ＤＮＡを徹底的に研究すれば不可能ではなくなると思う。興味ある研究だが、恐ろしくもある。実際ははるか古代の生物を再生する前に、人間を思うように扱ったりして、おかしなことになってしまうのではないか。「ブラジルから来た少年」をたくらんで、実行しようとするのが目に見えているもの。だからジュラシックパークはむしろ平和的な発想のように思える。こんなテーマパークなら、危険性を徹底的に排除できていれば、見てみたいと思うもの。だから、警告と位置づけるには少々無理があって、単なる娯楽になってしまうのだ。
　今見て楽しむ映画の一番である、とは言えるが、あとあと残りそうもないな。

　再見したジュラシックパークは違った様相を呈していた。この前、書いた気持ちは変わってはいないが、そうたやすく誰にでも出来るしろものではないことが痛感させられた。いくらコンピューターの力を借りたにしても、それを入力するのはあくまでも人間であり、コンピューターが自動的に映像を作ってくれるものではない。頭の中でイメージされたものを実際の映像にする作業は想像以上に大変なことだと思う。例えば、木に引っ掛かった車が少しづつずり落ちる場面を現場ではどのように撮影されていったか、を考えてみればいい。枝に危うく乗っている自動車からの脱出、下に下りようとする人間とずれ落ちかかる車、一瞬差で地上に飛び降りて助かったと思いきや、彼らの上に車が倒れかかる、ここまでの緊張を伴ったまま持って行く手法はただごとではない。文字で説明調に写し出すことなら、そう困難なことではないが、百聞は一見にしかず、というたとえにあるように、見ること、見せることに嘘はつきにくい。
　この映画、「ＥＴ」のようにオブラートに包まれたような話ではないので、比較は出来ないが、映画としての語り口の巧みさはより増しているのではないか。彼のいつもの手口と言ってしまえば、それまでだが、恐がらせ方としては一級だ。ただ、「激突」をあんなに若い時分に撮れた人間にしてはまだ、こんな所にいる、とも言えるのが玉に瑕。成功した人に対するジェラシーのようなものに彼は常にさらされているのだ。だから、一番いい方法は今までにない種類の映画を、それも飛び切りのを作ってしまえばいい。えっ、こんなすごいのが作れるんだ、と思わせるような。
　原作と比べると、ずいぶん整理されている。登場人物が少なくなっていると思うし、それぞれの性格づけも単純化され、分かり易くなっている。なにより、ジョン・ハモンドがなにしろリチャード・アッテンボローが扮しているため優しい人になっている。原作ででも悪人にはなっていなかったが、最後まであのテーマパークを諦めていなかったのではないか。この映画、はっきりした決着をみることもなく、終わってしまう。皆なでヘリコプターで脱出するが、島に残された恐竜の後始末はどうするのか。パート２の為に結末をつけなかったのか。でもこれはこのままでいいと思う。パート２を作ったら「ジョーズ」の二の舞になってしまうものね。