線路が都会の空気を伝えてくる。列車に乗っている人たちは垢抜けた格好をしているし、彼らは別世界からやってくるかのようだ。都会への強い憧れ、少女たちが毎日のように駅に列車の到着を見に行くのは、ひとえにそんな気持ちが働いていたのだろう。でも、その汽車に乗って都会に出てみようとはしない。彼女たちが大人になったら、そうするかもしれないが、彼女たちの親の世代の生活を見る限りではそうしないように見える。作物と言えば川原の石をどかしてそこに大根を植えたりするくらいで、荒れた山岳地帯の土地には豊かな実りを望むべくもない。だから、彼らが食しているものが何であるのかが分からない。米ではない、粟とか稗のようなものを粉にしてそれを加工して食べているのだろう。町にでて、何かを買ってくる、ということもしないのだろうか。香雪（シャンシュエ）の通う中学校でも他の子供の弁当に比べて、彼女のものはみすぼらしい。だけど、卑屈になっているわけではない。自分の生活程度を知っていて、高望みをしないのだ。だけど、新しいタイプのマグネットの付いた筆箱は欲しい。孤島にいるのではないから、いろんな情報が嫌でも入ってくる。それに飛びつける人はまだいい。でも、あのマグネットのはいいなあ。物はなくても、みすぼらしいとか、恥ずかしいとかはあまり思ってないようだ。それよりも、とにかくもこの村では珍しい中学に行けることがありがたいことなのだから。
　彼女の仲間たちと駅に汽車を見に行くだけではなく、何かを売りに行くようになって、楽しみが出来てきた。一つ年上のお姉さんである鳳嬌が汽車の車掌さんを好きになってしまい、なんとかその意を伝えようとする。そうそう、彼女たちが駅で売ろうと柿をとる場面があった。その柿の木の大きいことと、柿の実のたわわに沢山なっている様子は見事だた。地面すれすれまでなっている柿は手でとり、上のほうのは長い棒の先の網で柿の実をもぎとる。その様は楽しい遊びのようにも見え、これから起こる楽しい出来事にわくわくしていたのだろう。だけどその期待も空振りに終わってしまう。でもそれは憧れの域を出ていないものであり、良い思いでとして残るものだろう。