トム・ハンクスの監督。いかにも彼らしい、明るい作品。60年代のアメリカ、歌にしても、風俗にしても、何もかもが時代色をきっちりと出している。特に車は重要な働きをする。それも一台や二台ではない、何百台もの車が動いている。なにもこの映画だけが特別なのではなく、アメリカ映画ではこうなのだ。きっと、時代別に車を貸す商売があるのだろう。あと、昔の風景のフィルムもよく挿入されるが、そういうライブラリーもあるようだ。この手の映画では、そういう道具立ては必要で、実際に演奏し、歌うことの出来る人間もいるし、よりリアリティーを増している。
　内容はたわいのないもので、トム・ハンクスはバンドを組んだことがあったのではないか、と思わせるものがある。彼は脚本も書いている。演奏される歌が当時のものっぽい出来で、いい感じ。バンドの結成から、解散までの数カ月、彼らはいい夢を見たのだろう。昔も今もグループは作られては解散を繰り返している。解散しないのは例外とも言える。まあ、私自身のささいな経験から言っても、複数の人間が一緒になって何かを為す時は楽しみもあるけれど、困難なことの方が多い。特にそれにプロになって金がからんでくると余計だろう。
　真新しい電気製品は輝いている。これはいつの時代も同じだ。今で言えば、コンピューターになろうか。昔ではカラーテレビや冷蔵庫、ステレオ。そこから流れてくるのはロックンロール。脳天から明るい、古きよきアメリカがまだあった頃。ベトナム戦争以前のアメリカ。中身をのぞけば、それなりの傷も見えただろうが、表面上はきれいなアメリカがあった最後の時代だったんじゃないか。音楽にしても、一見優等生的なビートルズが席巻し、彼らにならってアメリカでもまねっこのグループがいっぱい出来ては消えていった。ここでその中の一つに登場してもらいましょう、というわけで、この映画が出来た、ということ。