トキワ荘の青春(1996)
監督 市川準
出演 本木雅弘、大森嘉之、古田新太、生瀬勝久、北村想、柳ユーレイ、桃井かおり、原一男、内田春菊、きたろう、時任三郎

 昭和30年代前半というと、ちょうど私が月刊の漫画誌を読んでいた頃だ。漫画は小学校卒業と同時に読まなくなってしまったが、トキワ荘の住人たちはその頃活躍していた。だからかなり本人と似ている出演者を見るだけで楽しいし、これはきっと本人たちもその頃の自分を実際に見るようで気持ち悪かっただろう。又は、気持ち良かったか。でも、あれだけ似ている人を、それも俳優を見つけるのは大変だったんじゃないか。
 トキワ荘自体はどうだろう。私の想像していたものとは外観は違っていた。もっと奥まったところにある感じがしていた。最も、この映画のものが実物にそっくりなのかどうかは分からないから、何とも言えないが、雰囲気はこういう感じだったのだろう。監督は当時の雰囲気を出すために、最も簡単かつ確実なずるい方法を使っている。それは、写真だ。当時のモノクロの写真を各所に配置している。そこで、ぐっと時代を感じさせ、そのあとの場面がずっと生きてくる。そのモノクロの画面がそのまま動き出す、というアメリカ映画ではよくやる手は使っていない。それをやりたくても、膨大な予算が必要になるからだ。それが出来ないから、写真にとどめているわけだから。
 アパートといえば、いわゆるげた履き式のこの手のものが普通だった。かなり前の形だ。私が若い頃にはもうすでにこういうのはなかった。アパートといっても、ドアがそれぞれ別になった、今の形式のだ。でも、それだと、それぞれの部屋の交流が出来にくくなる。どっちがいいか、と言えば今の方がいいが、トキワ荘のようなつき合いは出来ない。それはただ単にアパートの形の問題ではない。
 漫画を読まなくなってから久しい。だから、最近のもずっと以前のも知らない。ただ知っているのはこの映画に描かれている頃のものだけだ。時期はぴったりとあっているわけではないが、私の場合、動かない絵が動くものに移行したのだ。漫画は読むより実際に描く方が面白いのではないか。思うように絵が描けたら楽しいだろうな、と思う。下手な文章を綴るより、絵のほうがずっといい。
 とにかく、市川準は当時を再現しようとやっきになっている。きつい言い方をすれば、ただそれだけの映画とも言える。

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