トラスト・ミー(Trust)1991
監督 ハル・ハートリー  
出演 エイドリアン・シェリー、マーティン・ドノヴァン、メリット・ネルソン、ジョン・マッケイ、マルコ・ハント

 高校生の娘が妊娠したことを親に告げたら、親は驚く、けど世の中にないことではない。ただそれが自分の娘に起こることではあってはいけないこと、と思っている。だけど出来てしまったものは仕方ない。生むか、堕すか、結婚させるか、そんな風な判断をするまで冷静になる前に、自分たちに起こった不幸な事件を怒りで封じ込めようとするだろう。手を上げる。娘は家を出て行く。妊娠が親の認知した恋愛、結婚ではない結果として起こってしまったことが不幸の始まりだ。遊びでも妊娠してしまうのだから。ただその結果というのがちょっとやそっとでは解決できない厄介な代物だから困るのだ。妊娠してしまったから結婚する、よく聞く話だ。男が認知しないとか、逃げてしまう、というのもありがちだ。要するに何処にでも転がっていることを、この映画ではどうしたか。割れ鍋にとじ蓋、これが一番良いようだ。
 マリアが出会った男マシューも仕事上面白くないことがあり、テレビ工場を止めていた。それは彼の仕事に対する誠実な態度が原因であり、そんなかたくなな姿勢は放棄するのが大人の態度かも知れない。どんなことでぶつかるにせよ、若者は若者らしい自分なりの正義を振りかざしたいものなのだ。実際、嫌な仕事にも、嫌な上司にも妥協し、少し位の我慢は当然と思うことに慣れてしまっている大人に反発して当然だ。後悔は先には立たないが、物事、やってみないで反省は出来ないもの。いわば出たとこ勝負の人生、これを貫きたい。
 マシューがマリアの「私を信じる?」の問いに応えたことから、彼の姿勢も一変する。工場の仕事に復帰し、真面目に勤めようとするし、良い方向に事が運ばれるようになる。だが、好事魔多し、マリアが中絶したことを知り、マシューは日頃から持ち歩いていた手榴弾で自殺しようと工場に立てこもる。信じられる人が見つかったのに、なぜそんな行動を、と思う。彼女を試したのだろうか。
 話は戻るが、マリアが両親に妊娠を告げた時、彼女を殴った父親がそのすぐ後、急死してしまう。夫の死に呆然自失となってしまった母ジーン、この女性が変身する。夫の影に隠れていて、自分というものを発揮する機会のまったくなかった彼女が突然生きてくる。マシューを家に呼んで酒飲み比べで勝負をつけようとする。自分は水の入ったボトルで、彼には本物を与え、勝負は始めから決まったようなもの。そんなしたたかな生き方に本気になれば何でも出来ちゃう女の強さを見た。自分で納得が行かないことは徹底的に追求し、完璧な答えが出るまで手を緩めない。人生のある時点で転換できるなんてめったにあることではない。それだけに出来る人は強い。その点男は弱い。あきらめが先に立ってしまう。又は誰かに頼る。下駄を預けてしまう。この場合の信頼は、一方通行だった。男よ、しっかりしろ。

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