とても心に残る良い作品なのだけど、ただひとつひっかっかるところがある。それは母親像だ。彼女は映画が始まってまもなく病気で入院してしまい、あまり出番がない。セリフも少ない。そこで、彼女の言い分というか、言い訳が聞けない。これが片手落ちだ。父親の言葉は多いのに、母親のそれが少ないので、どうしても観客は父親に肩入れしたくなってしまう。この両親の見かけは、一目瞭然で強い母親に、弱い父親。でも、子供たちの評価は逆のようだから、ますますこんがらかってしまう。それも誤解であって、最後には解決をみるのだが、そうなると逆に母親には弁護する者がいないので、欠席裁判のような具合になっているわけで、これにも異議が出そうだ。
　ようするに、結論から言うと、父親が家を出ていった理由は母親にあって、それを母親は自分の責任とはせず、かたくなに父親が悪いと子供たちには言っていた。だから、母親と一緒の子供三人は、ずっと父を憎んでいた。反面、父と一緒にいた子供（男性）は正反対である真実を聞いていた。要約するとこうなる。それでも、このままだと、母は悪人になって死んでいくことになって、ちょっと後味が悪いかな、と思う。生きた二人を再会させて、直接はなしあわせることが出来たら良かったのに。それでも、父が勝ったかどうか、それは分からない。