元々舞台のものであるし、監督も奈良橋陽子だから、映画としても一風変わったものに仕上がっていた。変わった、といっても変にではなく、なかなか素敵に変わっていた。映画としてよくあるタイプのではない、新鮮な印象を持ったものになっている。これは、ベテランの監督になるとよけいそうだが、「慣れ」から来るイージーな作り方をしてしまい勝ちなのを、この新人監督はそれがない上に、しっかりした演出技術を持っているので、すっきりと良く出来ている。冒頭のタイムスリップするまでの場面もあえて舞台の形式でやるところも悪くない。力んで「映画」にしていないところが好ましい。そもそもこの話の発想は誰もが考えつきそうなもので、勝負は物語の発展がどの方向に行くかだ。たとえこのような状況が起きたとしても、一人や二人の努力では歴史がひっくり返るはずもなく、空しく犠牲者を見送るしかない。だが、そこは歴史を知る者の強みを発揮して、どういう形にせよ影響を与えうることは出来る。だが、それ以上に力のなさを痛感するだろう。どうせ50年前の誰かに替わるなら、天皇か、東条にでもならない限り、ほとんど無駄骨を折ることになるはず。歴史＝時代の力は大きい。それは紙に書かれたものではなく、その当時の社会全体を覆っているからだ。それは、こう考えたらいい。今、太平楽な時代にどっぷりと浸かっている自分に本当の危機感はあるか、と問うてみる。そうすると、今という時代にすっかりはまりこんでいる自分が見えてくる。だとすると、状況はかなり違うが、当時の世の中に染まっていたとしたら、戦争反対、などと唱える人間になっているはずがない。過去の歴史から学ぶことはあっても、現代にしっかりと生きる知恵を持てるほど賢くはない。戦後50年に当たる今年の映画界にあって、何本かの戦争映画が作られたが、見ようと思ったのはこの映画だけだった。実際、この映画は見る価値のあるものだと思うし、特異な視点で、現代まで切っていると思う。