人生にはいろいろな岐路がある。その時、必ずしもどちらかに決めなければいけないことばかりではない。むしろ曖昧な態度でいるうちに、時がたち、なしくずしになってしまったりする。この映画の主人公ヴィンセントはそんな横着な男だ。理由があって離婚しようとしている。気掛かりは娘のミーガンだ。子供には何の責任もないのに彼女にとってかけ替えのない家庭を壊そうというのだから。そして別々に暮らし始めた二人にそれぞれ新しい相手ができたのも自然の成り行きだ。ただ別居生活から離婚へと歩を一歩進めることに大きなエネルギーがいるようで、なかなか前に進まない。これは、新しい恋人とのこともあやふやな約束に終始してしまう結果になっている。オリヴィアがせっついて新しい家を建てたがっているのは、建物そのものだけでなく、そこで営まれる新しい生活を夢みているのだ。かたや元妻は同じ職場なので毎日顔を突き合わせているにもかかわらず、というか、毎日相手の顔色をうかがって、どんな生活をしているのかを気にしている。別れるなら別れるで、遠く離れてしまえば忘れてしまうものなのに。これも忸怩たる態度の原因の一つ。別れるに別れられない、離婚した相手が気になる。だったら離婚しないで浮気を公認する形を取れば良かったのに。そうもゆかないか。
　この映画の結末の付け方に意義あり。主人公を殺して解決、はないでしょ。どちらをも選択しなかった主人公だから、両方とも失わせろ、というのだろうか。これはあまりにも残酷な仕打ちだ。死は人間にとって最大の事件だ。死んでしまっては取り返しのつかないことになる。全てがやりかけたままでスイッチを切ったようなものだ。安易な結末と言われても仕方ないのではないか。彼が投函しようとして結局ポストに入れなかった手紙はオリヴィアには読まれず、留守電に残した最後の言葉はサリーは知らず、これはこれで終わりになって良かったのかもしれない。