私の男（Mon Homme）1995
監督 ベルトラン・ブリエ
出演 アヌーク・グランベール、ジェラール・ランヴァン、ヴァレリア・テデスキ |
これはかなり危険な香りのする映画だ。どこが危険かと言って全てだ。まず、冒頭からして、娼婦とはっきり分かる姿でホテルの入り口にいる主人公。彼女はそこで男を引っかけるのだ。日本ではまったく見られない光景だ。娼婦が道に並んだりする姿はない。だが、パリではあるのだろう。それにしても、誉められた職業であることには変わりない。その証拠に軽蔑の目で彼女を見ていく女性がいた。その女性を見とがめて、「あなたも本当は男が欲しいんでしょ？」と問いつめる。女性はみんな娼婦だ、というわけではないにしても、その本音は分からない。この娼婦がそうまでして、人間の本性を暴きたいのにはわけがありそうだ。気取って本音を隠している人間が我慢ならないのだ。だけど、ほとんど皆んなそうだ。本音と建て前というけれど、この件に関しては建て前の勝ちだ。全員が本性をあらわにして、実行していたら世の中めちゃくちゃになってしまう。それを意志的に制度化したのが結婚制度だろう。本来なら無理な形だったかもしれないが、人間の知恵がそうさせた。現に世界のほぼ100パーセントがこの制度を採っているのだから、正解なのだろう。
そんな彼女のかけた網に掛かった男、これが「私の男」だ。正式な結婚の相手も「私の男」なら、彼女のようにして見つけた男も「私の男」だ。どうあれ、男性を好きなように加工し、飼い慣らすのが女性の本性。まあ、本性といっても、それをそう意識している女性は少ない、と私は思う。それを別な言い方をすれば、母性とも言えるだろう。小さな子供を自分の思い通りに育てようと思う気持ち、これを子供にだけではなく、「私の男」にも施そうとする。武器はある。女性であるということ、これ一点が重要かつ最大の武器だ。そして悲しいかな、男はそれに弱い。この映画の犠牲者である男は、少しこわもてで女性の相手をするが、簡単に言えば娼婦のヒモになるしか道はない。定住の場を無くしていた男だもの、強い意志も持っていない。ずるずるべったりのヒモ、かなしきヒモだ。女性がつかまったのにつき合わされて、警察行きとなる。情けない。女の腐ったような、という形容をあえて使おう。そんな男だ。そんな男が普通の男なのだ、とまで言い切っているように思う。はたして、そうだろうか。きっぱりと否定したいところだが、そうも出来ないかも知れない。
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