ケネス・ブラナーとアル・パチーノが目指すものは同じなのに、方法が異なるシェークスピアを見せてくれる。それは実作者としての生みの苦しみを二つの面から描いている。と、ここまで書いて、それではどこがどう違うのか、を考えてみても、どうも分けられないことに気づく。二人とも俳優なのだ。まあ、一方が演出もするということが違いといえないことはないが、それにしても、ほぼ同じ視点からの映画になっている。
　どうも混乱している。それは両方を同時に料理しようとしているからだ。二人または二作品とも、そうやすやすと料理されるようなものではない。アルはベテラン、ケネスはそうではないが、キャリアからいえば、決して引けをとっていない。
　前にシェークスピアは読んでいるが、もう一度一通り読み返したくなった。現代の人までも魅了する魅力がなんなのか、楽しみかつ、じっくりと味わいたい。だから、映画での鑑賞もその一つの方法だ。同じ題材をどう料理するかが、今の演出とすれば、テキストで読むのは、元祖をひもとくようなもの。私も彼らと肩を並べるというわけにはいかないにしても、同じ土俵に上がることは出来る。シェークスピアへのアプローチはさまざま試みられている。残念ながら、舞台のそれは見たことがない。映画では何本か見ているが、現代につながる何かを重視するのか、古典は古典として舞台に上げるのか、に起点があるように思う。これから来る映画に「ロミオとジュリエット」を現代に持ってきたようなのがあるが、これも一つの試みだ。
　彼らが、実際にはシェークスピアを映画化せずに、こういう映画を作ったことは偶然の一致とはいえ、面白いことだ。ケネス・ブラナーはともかく、今回が初監督のアル・パチーノがいきなり実作せず、こういうのを作ったのは、作る前の言い訳を先に言っているようでもある。ということは、アル・パチーノはシェークスピアを作る義務があるようだ。この映画の返答は映画でするしかない。