この映画を、ドン・シーゲルとセルジオ・レオーネにささげる、とあった。イーストウッドが今のようになれたのも彼らの映画に出たからだし、彼らから学ぶところ大だったのだろう。今までも西部劇を作っていないわけでもないけど、これは贅肉を削ぎ落としたような枯れた味わいをもつ映画になっている。「ケーブル・ホーグのバラード」に似た雰囲気を感じた。かつての殺し屋が久し振りのお出ましとなるのだが、足を洗ったいきさつである女性は彼の言葉の中にだかしか出てこないのは、惜しい気がする。どこで、どのようにして出会い、荒くれ者の彼をどういう風に変えていったのか。でも、その突っ支え棒がなくなってしまった今、彼は元の彼には戻らない。何か大切なものを通過したのだから、元に戻るなんて愚の骨頂かと思いきや、目の前の餌に飛びついてしまったのは、止めてくれる人のいないためだ。彼は弱い人間なんだ。だから手軽な方法で金を稼ぎ、命の大切さも知らぬ間に年を重ねてきた。この十年ほどのことは、夢でも見ていたようなもの。そうとでも思わなければ、救われない。
　そんな悪の道から完全に足を洗ったかに見えた彼が、こんなちんけな殺しに飛びついてしまうなんて、やきが回ったとしか言いようのないことだ。やけのやんぱちは強い。一人殺すも、二人殺すも同じこと、サム・ペキンパー並に殺してゆくのだが、なんとも空しい。いささかの美学もない。イーストウッドが自らの人生をも映画に託す材料としては、これしかないかも知れないが、私は良しとしない。むしろ、アフリカで象を撃っていた方がいい。