私に娘がいて、仲が良くて、「おとうさん、大好き」なんて、言ってくれちゃって、そんなことを夢想しないでもない。でも、実際にはいないのだから、少し寂しい。
　14歳の娘ヴェロと父親アンドレがモーリシャスにバカンスにやってくる。フランスは海を隔てた所にも領地を持っていて、バカンスの場になっているんだね。海の近くに家を借りて、何週間も過ごす。豪勢ではないけれど、素敵な休日。例によって、両親には離婚の危機が迫っている。こんな微妙な年頃の娘がいるのに、離婚だなんて、と思うが、娘ばかりを気にしてはいられない。だが、大人のことも少しは分かってくる年頃の娘に、理解してもらいたい事柄でもある。
　父娘の仲は悪くはない。ヴェロは少し背伸びして、島で会った男の子バンジャマンの恋人と張り合おうと、18歳と嘘をつき、何とか関心を引こうとする。こんな手も使う。自分は一緒にいる年上の男の愛人で、彼は元冒険家で、今は危険な仕事に関与している。こんな危うい立場に自分を置けば、バンジャマンもこっちを向いてくれるに違いない、なんて、子供の考えることだね。相手もほとんど子供みたいなものだから、こんな嘘に乗せられてしまう。実際、二人が仲良くしている様子を見せるのだから、彼がだまされてしまうのも仕方ない。
　本当は父親にはちゃんと今の状況を説明してもらいたいし、表向き仲良く見せるのなんて嫌なんだけど、そこがつらいところ。嘘の上塗りで、誤解が誤解を呼び、変な方向にことが運ばれてしまう。一夏を一緒に過ごすはずだったバンガローからヴェロが飛び出していき、これで何もかもが終わってしまいそうになる。離婚は元々他人である男と女の別れであるのに対し、二人から生まれた子供とは離れようにも離れられない絆がある。血のつながりはやっぱり強い。愛情と憎しみは正反対の関係にあり、血のつながりがあるからこそ、変にもつれてしまうことにもなる。結婚の解消は簡単に出来ることかも知れないが、父と娘は解消できないこと。「さよならモンペール」の題名から、二人の別れがアンドレがヴェロを助けようとして溺れてしまったことかな、と思い、病院で死んでしまうに違いないとまで考えてしまった。でも、助かって良かった。「モンペール・ス・エロ」ＭＹ　ＦＡＴＨＥＲ　ＩＳ　ＨＥＲＯだもの、死ぬわけない。いつまでもたくましく娘のヒーローでいてほしい。